庭池の掃除

退院してきた父ちゃんの仕事である
しかし 左目を失明し左手の自由を失いした老父は 庭仕事が難しくなった
隠居生活を余儀なくされた父ちゃんには つらかろ
「生きて帰れたんじゃから まだえぇほぉで」っと 慰めてやった




昨年十月に ボクが犬と散歩に出て拾ってきたカメ、「亀吉」
この春頃から急にひとまわり大きくなって 飼育箱の壁をよじ登って
外に出たがっていた
「お盆が来るから山に連れて行って放してやれ」っと父ちゃんが言う
山道には適当な生育場所がなく、してみるとボクが拾ったのは…
子供たちにおもちゃにされて放り棄てられたカメを
たまたまボクが連れて帰ったものかもしれんな
で、亀吉は車に乗せて二河プール脇にある、ひょうたん池と呼んだかな?、その池に放してやった
お盆を前に 父ちゃんを自由にしてやった、見送ったような気がした


それから 季節を逸したけれど 鉢にしたシュロチクの植え替えを
お前に教えといてやろうなどと手伝いを強要した
株分けをしたら 二鉢が四鉢に増えた
序でに 父ちゃんの水撒きに都合の良い様 いくつかの植木鉢を移動させた
庭木にも池の鯉にもまったく興味のないボクではあるが
家に庭があるとないではやはり気持ちが違ったろう
その代償に動いてやらんにゃなるまい


大事に育てていた金魚の大きいのが一匹 昨日死ぬ
お盆どきにまぁ 冥土に旅立ったのか 誰かの身代わりとなってくれたのか
なにかとこの時分 生と死を見つめなおす そんなんだろうか


父ちゃんが入院中 池の濾過器が故障し 坂本さんに大変お世話をしていただいた
老父の難儀を考えた改良された器具は 父ちゃんの気に入らないものだった
で、せっかくの坂本さんの厚意を無にして 以前の濾過器洗いと
水抜きして池底掃除とういう大仕事を続けることになった
これは即ち ボクの仕事となるのだが…


池の水を抜いていくとひとかかえもあるようなのが身体を表した
長く生きたのもいるし 最近身内から預かったのもいる
改めて見ると もの静かな庭にこんな生物が棲んでおったんじゃな
いや実は 父ちゃんの入院中に 大振りな鯉を二匹も死なせている
池の手入れを怠った所為だったろうな
そんなこんなを思い考えしながら デッキブラシで池の底をゴシゴシやった
体中から汗が噴き出しシャツもパンツも身体に張り付いて動きにくい
そこを一段落として後は父ちゃんに見張りを頼み ボクは風呂にした
気がついたら昨日の微熱が抜けて筋肉痛ではあるが
むしろ健康的な自分を取り戻したような気がした